訪問レポート 健康経営 元気!つくってますVOL.9

私は食で人をつなぐ担い手でありたい
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管理栄養士・飾り巻き寿司インストラクター
Miyuki。さん
(食で地域コミュニティを活性化する団体
「食でつなぐ輪・和・話」代表)

ママになった管理栄養士、
ママと赤ちゃんのために誓いました
「家族と子どもの食事に悩むママをサポートしたい」
 育休中のママたちを対象にした「お母さんのための産後食講座」が地域のコミュニティスペースで開催されていました。産後のお母さんの健康を考えた食と間もなく始まる赤ちゃんの離乳食について、すぐに作れるようにとレシピと手際を合わせて丁寧に紹介。講師としてママたちの前に立ったのが、育休中のママだった管理栄養士のミユキさんです。
 その時のミユキさん、元気はつらつとした話し方とレシピの斬新さでママたちをひきつけ、次回の講座を望む声があがりました。
 以前から管理栄養士として食を通じた世代間交流会など、食のあり方やレシピの紹介をしてきましたが、「これからもママに向けた食講座を開きたいと思っています。私自身が育休を経験したことで、発見があったんです。それがこれからの私の仕事に関わってくると思います」。管理栄養士Miyuki。を突き動かしたこと、これから目指そうと思っていることをじっくりお聞きしてみました。

原点にあるのは、長生きできなかった祖父母への想い
――ミユキさんは現在、企業で特定保健指導をしていらっしゃるんですね
ミユキ はい、特定保健指導をしています。それはいわゆるメタボ対策で、食生活の改善で生活習慣病を予防することが主な仕事です。
――管理栄養士さんは難しい国家資格として知られていますが、この道に進まれたきっかけをお聞かせください。
ミユキ 実は祖父母が二人とも糖尿病で、私が物心ついた頃には毎日の食事が私たち家族と違うという生活でした。祖父も祖母も60代で私が大学入学前に亡くなりました。それがとても残念で、その時に食の重要性に気づかされました。大学では食物学を専攻しました。学生時代は1型糖尿病の子どもたちのサマーキャンプのボランティア活動をしたり、臨床栄養について学びました。
 管理栄養士の資格を取ってからも、慢性疾患の方の食事改善のアドバイスをしながら、いつも祖父母を想います。もっと早めに気がついて食事改善をしていたら、もっと長生きできたはずだと。

食事日記添削サービスの開発
――ママになる前までは、医療関係のベンチャー企業の立ち上げに参加して管理栄養士として忙しい毎日だったそうですね。
ミユキ はい、内科系の診療所と連携して慢性疾患の患者さんの食事指導をするという新しい仕組みづくりに携わりました。
 ご存じのように糖尿病などの慢性疾患の場合は食事療法が必須です。それぞれの方に合ったきめ細かい食事指導が求められます。そこで私たちは、食事日記添削システムを作りました。まず、患者さんに食事日記を書いてもらい医師に提出。その情報をデータベース化します。その後、在宅勤務の管理栄養士さんがWeb上で確認し、3枚のシートに添削アドバイスをまとめます。作成したシートは、検収を通して診療所へ送付します。医師は、そのシートを見ながら患者さんに指導をするという仕組みです。加えて、食事添削シート作りが短時間で作成できるためのアドバイスコメント集づくりや品質管理、約500人もの在宅勤務の管理栄養士さんの採用面接など、業務は多岐にわたりました。入社当初は社長副社長を含め5名だったので、毎日無我夢中で頑張りました。
また、患者さんに楽しみながら気持ちよく生活改善するためのフリーペーパーや健康な人にも生活改善の必要性を知ってもらうためのレシピサイトなども制作しました。
 レシピづくりでは、カロリーや塩分をコントロールしながらも美味しく食べられる方法を紹介したり、食事の添削例を見せながら油脂の減らし方や野菜の増やし方などを掲載しました。

家族と子どもの食事に悩むママをサポートしたい
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手軽さとおいしさで好評の産後食講座から
行事食としても人気の飾り巻き寿司(写真)まで
いつも笑顔と歓声があふれるミユキさんの講座
――管理栄養士として濃密な日々を送られてきたミユキさんですが、結婚、出産を経て育休を経験されました。そこでまた新しい発見があり、それが「お母さんのための産後食講座」につながったのですね。
ミユキ 気づかされた、という感じでしょうか。育休のおかげでこれまで知らなかった日常生活、子育て家族の生活を体験しています。そしてなにより驚いたのは『自分たちの食事と離乳食の作り方に悩むママがこんなに多いんだ』『離乳食を作っても赤ちゃんが食べてくれずに落ち込むママもたくさんいるんだ』ということでした。食について学んできた私も離乳食開始時には子どもが食べてくれず、教科書通りにならないことを痛感しました。
 でも、食は元気に健康に生きていくための基本です。とくに、出産前、出産後のママにはとても大切なことです。
 私が仕事でお会いする方々の多くは、食生活について真剣に考えるのは、健康診断で検査値が悪化したときや、家族が病気になったときが多いのですが、そのタイミングでは遅いと感じていました。これからは産前産後のママ・パパに向けて、食に関心をもってもらうような活動に力を入れる必要があると感じています。ですから、私は知識を活かして、困っているママの気持ちを少しでも楽にしてあげたいと思い講座を開催しました。

ママたちに正しい食の情報を!
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 「いただきます」の前に、ママ友生徒さんと
ミユキ 今は情報があふれていて、テレビや情報誌などが取り上げる情報を正しいと思ってしまう人が多いように感じます。
 とくに気を付けてほしいのは産後のダイエット。出産を機に、体形を戻したい想いからダイエットをされるママが多いのですが、○○○抜きダイエットなどは、偏った食事に陥り逆効果の場合があります。たとえば炭水化物をとらないでいると、空腹感によるストレスで必要以上に間食をしたり、食べすぎてしまうことがあります。また、炭水化物を抜くことで、タンパク質と脂質の摂取割合が増えやすくなり、脂肪が燃えにくくなります。大切にしたいのは、炭水化物、タンパク質、脂質のバランス。
ママになって子育てを始めて、食事の大切さに気づく方は多いのですが、本当は産前から、さらにもっと前からひとりひとりにあった正しい食事を心がけてほしいと感じています。とくに赤ちゃんがお腹で育っている時は、バランスの良い食事を心がけてほしいと切実に思います。

産後ママの3大悩み「ダイエット・母乳・夜泣き」
――女性週刊誌がママたちの産後の三大悩みとして取り上げていたのは1番がダイエット、もとの体形に戻りたい。2つめが母乳が思うように出ない。3つめが赤ちゃんの夜泣き、でした。それについて食との関係をどのように思いますか?
ミユキ 3つともママの食事と大きくかかわっているように感じます。間違ったダイエットによる偏った食事では、バランスが崩れて逆に太ることもあり、ストレスになる。お母さんが心身ともに健康でないと母乳は出にくくなりますよね。そして、母乳が足りないと赤ちゃんはお腹が満たされず、夜に何度も起きてしまい夜泣きの要因にもなっているかもしれませんね。
――三大悩みの原因も解決も食にあるということなのですね。
ミユキ ママたちは、しっかり栄養を取らなければいけないとわかってはいるものの、『手間をかけずに美味しい離乳食を作る方法がわからない』『自分の食事がおろそかになってしまい、朝はお餅、昼はカップラーメン、夜は惣菜を買ってきて食べるになってしまう』というママたちの話を聞いたことが「お母さんの産後食講座」を始めるきっかけでした。
 また、離乳食づくりにレシピ本を見て、3時間もかかっている方もいました。そんな一生懸命なママが頑張り続けていったら、疲れ切ってしまうでしょう。料理も嫌いになるでしょう。手間をかけて作る離乳食こそが我が子への愛情表現だと思う方が多いかもしれませんが、そういう考え方に縛られなくても大丈夫なんです。
 そんなママに正しい食事の情報を提供したり、効率よく栄養がとれる方法や簡単レシピの紹介をさせていただいています。
 先日の講座では、サバの缶詰を使い野菜をたっぷり入れたラタトゥイユ風のスープをつくりましたが、その手軽さにママはびっくりしていました。おひたしや常備菜も紹介しました。『おいしくて栄養があるのに、こんなに簡単でいいの?!これなら作れる』『ベストの方法も教えてくれるけれど、ハードルの低いベターな方法も教えてくれて気持ちが楽になりました』『疲れて作る気も起きない時に、常備しているもので簡単に作れるので、困った時のお助けレシピになる』『早速、昼食に作り、とても助かっています』などの感想をいただきました。

次の夢は、「かかりつけ管理栄養士」
――ママ友のために、そしてこれから育っていく赤ちゃんのための正しい食の普及を使命とするというミユキさんですが、これからの目標はありますか?
ミユキ 私がこれから目指したいのはかかりつけ医師ならぬかかりつけ管理栄養士なんです。かかりつけの管理栄養士は、その人の体型や生活習慣、食事の傾向を把握してその人に合わせた食生活や簡単に作れるレシピの提供、調理のコツなどをきめ細かくアドバイス。その人に合った食生活を一緒に考え、疾病を予防する存在です。最近は予防医学ということが言われていますが、そのためにも誰もが身近に相談できるかかりつけの管理栄養士が必要だと強く感じているところです。
――健康は損なう前に予防できるのが理想。それを可能にするのが食生活ということですね。健康志向の今、かかりつけ管理栄養士さんに期待したいですね。

~取材を終えて~
 お話を聞きながらいちばん感じたのは若さだけでないパワフルな行動力と志の高さ。ことに新システムやフリーペーパー等に関わった頃のミユキさんの働きぶりは「それはもうすごかった」そうです。管理栄養士によって管理栄養士の道を拓くという使命感に圧倒されました。
 その力の源にある祖父母への想いから、ミユキさんは地域コミュニティの「食でつなぐ輪・和・話」を立ち上げて、食を通した世代間交流も続けています。評判なのが、どこを切っても同じ絵柄がでてくる「飾り巻き寿司」。インストラクターの資格を取得して、30種以上の飾り巻き寿司が作れるそうです。食は正しく、そして楽しくありたいというミユキさんの気持ちがそこにも見えます。
 そして、お母さんに正しい食を普及させたいのはもちろん、子どもの食育にも力を入れたいとも話してくれました。イベントや講習会に講師として参加しても「先生と呼ばれるのは苦手」。ママになって使命感に火が付き、でも気持ちは垣根なくというお人柄を感じました。マイかかりつけ管理栄養士に!と多くの人が押しかけてしまいそうです。
取材構成 フリー記者・山崎陽子、編集部・吉原佐紀子

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今月の「元気!つくってます」を読んで

親としての育ち体験から、
パワーアップしていく人

臨床発達心理士・
学校心理士
䅏田智奈美先生

 ミユキさんの「元気!つくってます」は、「元気!重なります」という思いを引き出してくれる内容でした。管理栄養士を目指した想いや患者にかかわる姿勢は、ミユキさんの人によりそう力がベースになっているのだなと感じました。管理栄養士として働く人をサポートする姿勢は指導型でなく、その人のやる気を起こすように、ともに考え進むよりそい型ですね。
 発達心理学では、人は自身のライフイベントに向き合い試行錯誤しながら生涯育ち続ける存在だととらえます。結婚・出産・育休を通し、それまでのよりそうサポート姿勢にさらに「正しい、楽しい食を伝えるという新しい気づきを重ねた」というミユキさん。育休中に出会ったママたちの様子から、子どものこころとからだを安心、安全を保ちながら育てるには、ご自分の人によりそう力に、さまざまな人の支えの力をつなぐ工夫を加えることが大事だと気づかれたのですね。
 私の出会う親子の方々にも、母として親としての育ちの体験によって、人とかかわる姿勢が変わっていく様子が見られます。「その人に合った正しい情報を伝え、予防の考え方を身につけることを続けていきたい」という考えは、会社組織での働く姿勢にも活用されていくのでしょうね。
 ミユキさんと同じように、会社組織の中には、親子の育ちを体験されたことで、人々によりそう力や支えを引き出しつなぐ力をパワーアップしている方々がたくさんいると思います。そうした元気を伸ばしている方々が、働きの元気を重ねる力になれるように応援したいと思わせる、ミユキさんのお話しですね!
䅏田智奈美
(のきた・ちなみ)
臨床発達心理士・学校心理士
早稲田大学大学院人間科学研究科卒業。子どもの療育施設にてことばの相談と発達支援、総合病院小児科にて親子相談支援、親子支援施設にて発達相談を行い、「気になる子」「発達的に特別な配慮が必要な子」への発達支援や親支援を行っている。また、小学校にて巡回相談をおこない、学校生活におけるさまざまな問題について、アセスメントやコンサルテーションを通して、問題の解決や改善をサポートしている。