Case 3
ぶら下がり、権利主張型社員、フリーライダー。この3つはいずれも、かつては、「年功序列で給料も保証されているから、仕事はほどほどに」という態度が見え見えな男性社員を指したものでした。フリーライダーとは「無賃乗車」、つまり、自分は汗せず他人の成果にタダ乗りする、そういう社員を揶揄した表現で、海外でよく使われます。
ところが、昨今の女性活躍推進ブームの陰で、同じように形容される女性社員がいて、しかも年々増加していることが、知られるようになりました。
いま、規模の大小を問わず、あらゆる企業から、「育児休業や時短勤務などの制度に甘んじて、100%の力を出さない女性社員に困っている」という声が聞こえてきます。そんな当事者を目の当たりにしている同性の方から、お悩みが届きましたので、いっしょに考えてみましょう。
両立を頑張る人の足を引っ張らないで
N・Kさん(40代女性・電気機器関連企業勤務)
育休からの復職率はほぼ100%、年間200人近くが育休から復帰、という企業の人事を担当しています。
女性活躍推進やダイバーシティ&Iの理念のもとで、手厚い制度が整備され、それを活用するワーキングマザーが増えるのは大歓迎ですが、気がかりもあります。
こんなこと言ってはなんですが、「子育て中だから、仕事はそこそでいい」と意欲が感じられないばかりか、「子育て中なのに、仕事をバリバリやる人の気がしれない」と、頑張っている人の足を引っ張るような陰口をきくのはなんとかならないでしょうか。
「ぶら下がり」という言葉があるようで、これまでは「男性こそどうなの?ぶら下がりがいないつもりなの?」くらいに思っていたのですが、子育ても仕事も前向きに考える自分を誇りに思っている私は、同じ女性として、そういう風に見えてしまう人がいるのは事実、認めざるを得ないのが残念なのです。
ぶら下がりは、可能性を秘めた人たちかもしれません
のっけからブーイング覚悟でお話ししますが、私もしょっちゅう、「育児を理由にワーママがやり残した仕事を、私たちは残業してフォローしている。これじゃ、婚活もできやしない!」「会社は、産んだ社員にやさしく、産んでない社員には冷たい!」といった愚痴を、後輩世代の女性たちから聞かされています。中には、「育休逃げ切り社員」といって、育休復帰後にぶら下がり化する社員も出現しているとか。
少し上の世代には、「出産したら辞めざるを得なかったところに制度ができて有り難い。会社に支援してもらったぶん、仕事で還元しよう」という思いが、制度を利用する者のマナーとしてありました。
キーワードは「支援と貢献」です。「制度があるんだから利用するのは当たり前」「子どもがいても仕事はできると思われるのは迷惑」ではなく、支援と貢献は対価関係にあることを、誰もが肝に銘じておく必要があります。そういう大前提を伝えてこなかった職場には、今回のお悩みのような不協和音が生じます。
背景には、職場のマネジメントの失敗があります。「やっぱり女性はダメだな」みたいな、十把一絡げの雰囲気が漂っていて、頑張っているワーママが報われない。あるいは、「女性VS女性」という対立が生まれて、全体のモチベーションも生産性も損なわれる…。
ただ、私は、「ぶら下がり社員が生息できる会社はいい会社だ」とも思っているのです。ブラック企業なら、マタハラの横行で、行き着くところ解雇ですから。
私が問題視するのは、不協和音とともに、そのままでは本人のキャリア形成が阻害されてしまう点です。そこで、コンサルのご依頼によっては、「ぶら下がり社員研修」を提案します。もちろん、いくら空気読めない人間を自認する私も、さすがに現場で、「ぶら下がりの皆さんのための研修です」なんて言い方はしませんが(笑)。研修の詳細は省きますが、要は該当者と周囲の本音を集約し、それぞれに提供するのです。すると面白いことに、自然と双方に反省が促されます。
通常、「ぶら下がり」と聞くと、「楽をしている人たち」というイメージがあるじゃないですか。でも、本人たちに「楽をしている」という気持ちはまったくありません。ワークの比重を下げないとライフが崩壊しそう、そういう状況なのだとわかったりします。
人生は山あり谷ありです。私も、生死にかかわる難病を持った子どもの看護、統合失調症で問題行動が絶えない実父の介護などで、何度もどん底を味わいました。ところが、そういった究極の制約を経験すると、後はすべてがポジティブに変わることを知りました。
校庭によくある「うんてい」という遊具では、次のバーをつかむまでぶら下がっていますよね。それと同じで、ぶら下がりに見えるあの人も、実は次のステップに進むプロセスにいるのかもしれないと、中長期的な視野で考えてみてはいかがでしょう。
また、「仕事はそこそこでいい」なんてうそぶいている方も、「制約があるからこそ頑張っている人」「状況が変われば、ものすごい速さでうんていを渡っていける人材だ」と、そんなふうに見られる社員を目指していただきたいものです。
この先、人口減少が進む限り、一時的に仕事をセーブして、ぶら下がらざるを得ない人が増えるのではないかと思います。でも、そういうネガティブな状況の中でやりくりする、そのスキルは絶対「売り」になります。ぶら下がり社員は、実は可能性を秘めた人たちなのです。互いの本音を知り、ぜひ励まし合ってください。そこで一句──。