訪問レポート 健康経営 元気!つくってますVOL.13

お金を超える大切なもの
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城南信用金庫 相談役
吉原 毅さん

子育て世代へ、社会人へ、伝えたい
お金が介在しない関係を大切に
お金に振り回されない人生を!
街には赤ちゃんや子どもを連れてゆっくりできるスペースは、案外、少ないものです。
家から出られず、地域で孤立しがちな子育て家族に、気軽にお出かけして来られる場を、子育て支援のNPOとのコラボで提供したのが、城南信金・経堂支店です。
毎週1回ほど、約50人の母子が集い、ランチも授乳もおしゃべりも、気がねなく過ごせる“子育てひろば” が開催されるようになって、約1年半。お金のプロに聞きたいと、ここを利用するお母さんたちから吉原毅相談役にリクエスト、「子育て家族のためのお金のセミナー」が実現しました。お金の心配は人の歴史とともに……という思いがけない話の展開に、会場は笑いと元気でいっぱいに。「社会で子育て」の1日をレポートします。
城南信用金庫ホームページ http://www.jsbank.co.jp/

「お金の貯め方」そのコツはたった1つ
――子育て中のお母さんたちの関心事、「お金を貯めるコツを教えて」にきっぱりと応えていらっしゃいましたね。
吉原 そうでしたね(笑)。どの世代にも共通するお金の2大関心事「貯め方」「老後資金の心配」について、あちこちでお話しすることが多いんです。
 「お金を貯めるコツ」はたった1つ。使わないこと。タンスの引き出しでも口座でもいいから、とにかく使わずにとっておくことなんですね。貯める目的意識があれば、誰でもできるんですよ。面白いことに、年収に関係なく、貯める人は貯めている、貯まらない人は使ってしまうから貯まらない……というデータもあります。年間に10万円でも20万円でもいいから貯めていこうと考えて、その残りで生活をまわすように工夫する、ということが習慣になっているご家庭は、お金が貯まります。
――貯めるコツは使わないこと。もう当然のような、意外なような。
吉原 そうなんですよ。「幸せ」と「お金」とは違うんです。幸せならば目的意識もはっきりして、お金を貯めることが決して苦痛ではなく、むしろ将来の大きな夢を実現できると思って家族みんなで協力できるんです。
 けれどもお金にはひとつ困ったところがありまして。例えばお金のことを夫婦で話すと、だいたい喧嘩になります。うちもそうですが(笑)。
 ですから、夫婦間でお金のことを話し合うときは、マイルドにさらっとすることが大事なんです。
――ここは、お父さんにも、社会人にも聞いてほしいと感じました。
吉原 はい、家族がいっしょにいる時間が幸せ、人とつながっているのがうれしい、という実感があると、パッと使ってストレスを発散するような浪費が減り、不思議とお金は貯まります。そこをお伝えしたかったんです。
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子育て支援グループとコラボ。週1回ほど、城南信金経堂支店(東京・世田谷)の会議室が「子育てひろば」になります。

お金が介在しない関係を、もっと大切に
――人の幸福は、お金ではなく、人と人の間にある、と……。
吉原 お金はもともとエゴイズムの概念から生まれたもの。周囲とのつながりが実感できず、「自分はひとりだ」と考えたときに頭の中に生まれるひとつの幻想なのです。
 仲のよい人たちとお金のやりとり、貸し借りなどをすると、やがて損得が頭の中心になり、だんだん仲が悪くなります。そこに十分に気を付けて、仲のよい人たちの間では、美味しいものなどをさしあげたりいただいたり、仲良く行き来したりといった、気持ちで交流する関係を大切にしてほしいのです。
 現代社会はお金によって様々な問題が起きていますが、それを防ぐには、家庭、お友だちや仕事仲間、地域のつながり、といったお金が介在しない関係を大事にし、お金を介在させない関係づくりを大事にすることだと私たちは思っているんですね。
 私どもの原点は、お金によって人と人が引き裂かれる今日の社会を見直し、もう一度思いやりのある社会を取り戻すために、お金を適切にコントロールして差し上げなければいけない……という考えから生まれた「協同組合会社」の、金融部門なのです。
――それが信金のルーツなのですね。お金の歴史、文学、心理といった領域までお話が膨らみました。
吉原 お金の歴史は初耳という方が多いですね。すでに原始の社会では同じ村のなかではお金を使ってはいけないというタブーがあったんです。村人同士がお金を使うと仲たがいのもとになるから使わない。どこで使うかというと隣の村のよその人とならお金で取引をしてもよいという生活ルールがありました。古来、人間はお金の怖さを知っていたんですね。
 そして、お金は古今東西、文学の格好のモチーフにもなってきました。『人形の家』(イプセン作)のノラは女性の自立の物語と言われていますが、出奔の発端は借金でした。『ベニスの商人』(シェイクスピア作)も、『クリスマス・キャロル』(ディケンズ作)の主人公も、お金で自己中心的になり、人の心を失ってしまいます。
 あれがほしい、これもしたい……お金がないと夢が実現できない、と不足を考えないようにしたいですね。お金イコール幸せではないのです。

人が人を支える健全なコミュニティづくり
――お金の二大関心事と言われたとおり、「老後資金が心配」という声がお母さんたちからあがりました。子育てがスタートしたばかりの生活なのに、と感じましたが。
吉原 今は、大学生ですら老後の不安をもっていますよね。ですから、大学でのセミナーでは、私は、「年金は心配いらない。今は団塊と呼ばれるボリューム層の存在で年金がアンバランスになっているが、やがては世代交代となるでしょう。そうするとバランスがとれて、年金も正常化される」と切り出すんですよ。会場が納得の雰囲気になります。
年金は、支える側、支えられる側の年代構成によりますし、心配しすぎることはないですよ、と伝えています。

「相談できる人がいないことが不安」

――お金の不安とセットで、「相談できる人がいない」という声もあがりました。
吉原 皆さんには、何より、私ども信金は公的機関であり、困ったときにお手伝いするしっかりしたサポート体制があることを知っていただきたいんです。住宅、教育、事業拡大、保険、介護、不動産……など、わからないことに無料でご相談にのる相談窓口があります。生活のあらゆる分野の専門家が控えていますし、研究者との連携もあります。子育て世代で、万が一教育費が足りないというときには、学資ローンもありますし、高齢の方のお世話をする「一般社団法人しんきん成年後見サポート」も立ち上げました。迷ったらご相談いただきたいですね。
 大切な人間関係や暮らしを補完するためにお金があり、お金がもとで問題が起こらないように「お金を融通する」のが、我々金融機関の仕事なんです。そして、お金のトラブルの抑止力は、お金ではなくて、人間です。お金が暴走しないためにはお互いに協力しあうあたたかく健全なコミュニティづくり、人が人を支える仕組みづくりが大切です。そのために、私たちは力を注ぎ、ご協力をしたいと考えています。

コミュニティバンクの子育て支援
――子育て支援の場に、支店の会議室を提供されて、職員の方がベビーカーを抱えて階段の上がり降りをお手伝いして、お母さんたちに感謝されていましたね。
吉原 赤ちゃん、学生さん、若いご家族、ご高齢の方……街で暮らす様々な方に出会い、どれだけ学ばせていただいているかはかりしれません。感謝の気持ちでいっぱいなんですよ。
 ここでの子育て支援の開催テーマをみると、お母さんたちが主役になって教え合う「ママからママへ伝える離乳食」、着つけのできる先輩お母さんが大活躍する「和服を着て赤ちゃんとツーショット撮影」、ご近所の小児科医による「小さな命を守る、救命救急」など、地域の人と人の間でこそ学び合えることが取り上げられています。子育て家族が地域と出会う第一歩に、コミュニティの一員として、場をご提供できてよかったと思っています。
――城南信用金庫は、被災地復興支援、スポーツや地域活動への協力など、社会貢献に積極的に取り組んでおられますが、その一環で子育て支援も始められたのですね。
吉原 いまは、誰もが地域の中で孤立しがちです。若い家族が仲良く子育てできているでしょうか、将来に希望をもって子育てビジョンを考えることができているでしょうか。情報はたくさんあっても、リアルな生活実感や幸福感をもつことが困難な時代になっています。ですから、子育て支援グループから協力のお話があったときに、おたがいに支え合う健全なコミュニティを取り戻すために、コミュニティバンクとしてできることをお手伝いしたいと思ったのがきっかけです。
――子育て世代でもある支店長さんから、教育資金のリアルな体験を踏まえたアドバイスもありましたので、採録でご紹介したいと思います。
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教育資金について、自身の体験をまじえて語る経堂支店長岩瀬秀雄さん(現・荏原支店長)

支店長の教育資金アドバイス
岩瀬支店長 これからかかる教育資金。具体的な数字も子育て家族には気になりますよね。幼稚園から大学まで公立だと、生活費も含めざっくり700~800万円。小学校からすべて私立は、この約2倍の約2千万円くらいかかります。
 公立高校を目指していても、受験結果によって私立になるかもしれない。大学受験の予備校に1年間通うと100万円~150万円程ですから、浪人をして国公立大に入学すると、私立大とあまり変わらないという結果になります。
 計画通りにいかないこともありますし、これが正解というものもありませんが、大まかな数字を頭の片隅に入れておいていただければと思います。
吉原相談役 20年で1千万を貯めようとすると、10年で500万円、1年で50万円。月々では4万2千円の貯蓄、なかなかな金額ですね。教育費はやはりある程度かかると思いますから、目標をもって貯める努力をなさることが大事と思います。
~インタビューを終えて
今は、だれもが漠然と様々な不安を抱えて生きています。お金に振り回されない人生を…というお金のプロの言葉は、「不安のもと」に依存せず、人と人の間であたたかく生きることの大切さを伝えていました。「社会で子育て」の意義もそこにあるのですね。「どんな相談にも、のります」と多彩な窓口の紹介もあり、子育て家族が大きな安心感を取り戻すことができたセミナーでした。
インタビュー:外山 緑+吉原佐紀子(ダイバーシティPress編集長)

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今月の「元気!つくってます」を読んで

城南信用金庫 相談役 吉原毅さんへ
お金に人生を奪われない…吉原毅さんの言葉は、
「子どもたちから、時間を奪ってはいないか」と、
エンデの名作『モモ』を思い出させてくれました!

東京都・世田谷区長
保坂展人さんから

さすが、吉原毅さんの名言です
「お金を貯めるコツはたった1つ、使わないこと」は、さすが吉原毅さんの名言ですね。
 私たちは消費社会に生きています。「新しい商品はいいですよ」「もう古くなったものをお使いで困っていませんか」と巧みに購買意欲を刺激するCMが溢れています。
 こうした環境の中で、未来を見通した資金を準備し、支出は厳選して絞り込むことは「暮らしの知恵」ですね。 吉原さんの話から連想したのは一冊の本です。
子どもの時間は「大人への準備」で良いのだろうか?
 長い間、親子で読み継がれている物語に、ミヒャエル・エンデの名作『モモ』があります。ここには、「時間貯蓄銀行」の灰色の紳士たちが登場して、人々から「時間」を奪います。「時間貯蓄銀行」という優れた比喩は、日本の子どもたちの日常を見事に言い当ててはいないでしょうか。
 子どもにとって有益なのは、「大人になる準備をすること」であり、友達と夢中になって遊んだり、本を読んで空想の世界をさまようことは、価値のないことだ……というささやきが、灰色の紳士ではなくて「教育産業」のカラフルなパンフレットや、ネット広告が親たちに語りかけてきます。
 学校が終わる放課後や、土日は、お稽古事や塾でびっしり埋まっている……という子も珍しくありません。「大人になるための準備」に時間を費やし、将来に備えているようにも見えます。けれども、遊びを解体し、友達との時間を排除して行われる「大人への準備」は、本当に有益なものでしょうか。
 もう一回、『モモ』を読んで、考えてみたいと思います。
保坂展人
(ほさか・のぶと)
東京都世田谷区長。ジャーナリスト。1955年宮城県仙台市生まれ。高校進学時の「内申書」をめぐって「内申書裁判」をたたかう。1980年代から学校、教育問題をテーマにジャーナリストへ。1996年総選挙で衆議院議員となり、2009年まで、3期11年間をつとめ、国会質問546 回を重ね「質問王」の異名をとる。2011年4月から世田谷区長。
近著に『相模原事件とヘイトクライム』(2016年・岩波ブックレット)、『脱原発区長はなぜ得票率67% で再選されたのか?』(2016年・ ロッキング・オン) 、『88万人のコミュニティデザイン』(2014年・ほんの木)、『闘う区長』(2012年・集英社新書)